映画「ブレード・ランナー ファイナル・カット」レビュー

人はどれくらい寿命があれば十分に生きたと思い、また死の恐怖から逃れる事が出来るのだろうか。89歳まで生きたミケランジェロは「残念なのは、やっと何でも上手く表現出来そうになったと思えた時に死なねばならぬことだ」と遺し、葛飾北斎は88歳の臨終の際に「あと10年、いや5年永らえたい。そうしたら本当の画家になれるものを」と嘆息した。SF映画ブレードランナー』は、まさにその“寿命”がキーワードだ。

『21世紀の始め、タイレル社はロボットの進化段階をネクサス・フェーズ(実質上、人間に等しい存在)に進めた。それはレプリカントとして知られる。ネクサス6型レプリカントは、彼らを創造した遺伝子技術者に対して、体力や機敏性においては勝り、さらに知能においては少なくとも同等であった。レプリカントは、危険な宇宙探査や、他の惑星の植民地化など、宇宙での奴隷労働に使われた。ネクサス6型の戦闘チームが宇宙植民地で流血を伴う反乱を起こした後、レプリカントは地球上では非合法な存在と宣言された -- その罰は死刑である。特別捜査班(ブレードランナー・ユニット)は、侵入してくる全てのレプリカントを捜索の上、撃ち殺すように命令された。それは処刑とは呼ばれなかった。それは廃棄と呼ばれた。~ロサンジェルス2019年11月』(映画の冒頭より)

作品舞台は、超高層ビルが林立し酸性雨が降り注ぐ2019年のロサンゼルス。宇宙で奴隷労働に従事していた数体の人型ロボット=レプリカント(以下レプリ)が、反乱を起こして地球へ密航してきた。主人公はレプリたちを始末する特別捜査班のデッカードハリソン・フォード)。彼はレプリを見つけ出しては一体ずつ“廃棄”していくが、その過程でなぜレプリたちが危険を冒してまで母星に戻って来たのかを知る。レプリは製造から数年経つと人間のように自我が芽生える為、安全装置として寿命が“4年”に設定されていた。彼らは製造年月日を知る為に、そして延命の方法を探す為に、自身が生産された会社に潜入を試みる。そしてデッカードは、最後の瞬間まで必死に生きようとするレプリを見て、機械だと思いつつも殺す事の後味の悪さを感じ、生きる姿勢に共感し始める。

この作品は生命賛歌のヒューマンなストーリーだけでなく、光と影を使い分けた幽幻な映像美でも大きな話題を呼んだ。完全主義者のリドリー・スコット監督は1ショットの撮影に8時間も費やしたという。監督は美術に造詣が深く、小道具の一つ一つまでデザインにこだわった。天才シド・ミードがデザインした流線の美しいスピナー(パトカー)にはため息が出るだろう。徹底した映像世界とヴァンゲリスの幻想的な音楽に身を浸す至福を味わえる珠玉の一作!